核磁気共鳴分光法 (Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy)

   核磁気共鳴分光法によって得られるスペクトルから、化学シフト、スピン-スピン結合定数および積分値により注目しているシグナルが分子中のどの原子に該当するのか情報を与えてくれる。官能基に特徴的な固有の化学シフトが判っているため、原子がどのような結合様式をもつのかわかるため、分子構造を決定するのに極めて重要である。そのため、核磁気共鳴スペクトルは、今や有機化学における構造決定に欠くことができない手段となっている。Figure 1に分光計の写真を示す。

Figure 1. NMR (Nuclear Magnetic Resonance) spectrometer.

   実験レポートでのNMRスペクトルの報告は、チャートを添付するだけではなく、化学シフト、シグナル多重度、カップリング定数および積分値をチャートから読み取って書き出し、それぞれのシグナルの帰属を行う。

   例 1H NMR (CDCl3, 300 MHz) δ 2.34 (s, 3H, Ha), 3.44 (d, J = 6.7 Hz, 2H, Hb), 4.03 (dd, J = 5.5, 10.3 Hz, 1H, Hc), 5.55-5.78 (m, 1H, Hd)

赤外分光法 (Infrared absorption spectroscopy, IR)

   赤外分光法は、分子が構成されている原子間の共有結合の伸縮や変角等の振動のエネルギー吸収を測定できる。官能基にはそれぞれ特徴的な特定の波長のエネルギーを吸収することがわかっているため、どのような官能基をもっているのか特定することが出来る。官能基に特有の吸収が現れる波数領域を特性吸収帯 (characteristic absorption band) と呼ぶ。特にカルボニル基や、二重結合、三重結合、水酸基、ベンゼン環の分析に便利である。Figure 2にフーリエ変換型赤外分光計の写真を示す。


Figure 2. Fourier transform infrared (FTIR) instrument.

   実験ではサンプルの形状によって、ヌジョール法、液膜法、KBr錠剤法、溶液法のいずれかの方法が用いられる。サンプルが固体の場合には、KBr錠剤法がよく用いられる。試料が十分乾燥できていない場合には、目的の化合物の吸収に加えて水の吸収も同時に観測されるので注意を払わなければならない。
   KBr錠剤法では、サンプルを臭化カリウムと混合し、専用の成型機を用いて加圧することにより錠剤を作製する。臭化カリウムの量が多すぎたり少なすぎたりすると透明にならなかったり割れたりして、測定に適した錠剤ができない。また、サンプルが多すぎたり少なすぎる場合もうまく測定できない。
   実験レポートでのIRスペクトルの報告は、チャートを添付するだけではなく、波数と強度をチャートから読み取って書き出し、それぞれの吸収バンドの帰属を行う。

   例 IR (KBr) 3010 (s), 2950 (s), 1600 (s), 1500 (m), 1450 (w) cm-1

   ただし、s: strong, m: medium, w: weak という意味である。

電子スピン共鳴分光法 (Electron Spin Resonance Spectroscopy, ESR)

   ラジカルや三重項カルベンのように不対電子をもつ有機化合物の電子構造を解析に用いられる。これらの分子は核磁気共鳴分光法によって十分なスペクトルを得ることができないため、電子スピンの状態を解析する上で必要不可欠な測定法である。Figure 3に分光計の写真を示す。液体He温度まで下げて測定することができます。


Figure 3. Electron spin resonance (ESR) spectrometer.


紫外・可視・近赤外分光法

   紫外可視近赤外分光法は、有機分子の紫外線領域から可視および近赤外の領域における光の吸収波長と吸光度を測定することができる。近赤外線は肉眼では観測できないが、デジタルカメラやビデオカメラに使われている半導体撮像素子は、可視領域よりも近赤外領域の方が感度が高いことがわかってきた。そのため、近赤外領域に吸収をもつ有機材料が注目されている。Figure 4に紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR) 分光光度計の写真を示す。この装置は、透過型の吸収を測定することができる。


Figure 4. UV/VIS/NIR (UltraViolet/Visible/Near Infrared) spectrophotometer.


質量分析法

   有機分子をイオン化し、磁場の中で飛行させると、質量と電荷の比に比例して飛行の軌道は曲がってゆく。その曲がり具合を解析することによって質量を正確に見積もることができる。飛行時にはもちろん重力の影響を受けるため、飛行軌道は徐々に下がっていくがその補正も装置の設計において考慮されている。イオン化の方法には、EI法、CI法、FAB法、ESI法などが知られており、この順番にソフトにイオン化させることができるため、フラグメントイオンが少なくなり、親イオンピークを観測しやすくなる。Figure 5に二重収束型質量分析装置の写真を示す。この装置では、小数点以下4桁までの質量を測定することができる。そのため、化合物の組成を決定することができる。さらに、フラグメントイオンを解析することによって構造を同定することができる。
   日本語ではMASS(マス)と言うが、英語ではMS(エムエス)と発音するので覚えておくとよい。


Figure 5. Gas chromatography-mass (GC-MS) spectrometer.


飛行時間型質量分析法

   有機分子をフロトン性溶媒に溶かしてマトリックスを調製した後、レーザーを照射することによってその一部分を揮発させる。プロトン性溶媒から有機分子にプロトン移動することによってイオン化する。このイオンを、ある電圧をかけて加速させ、真空中を飛行させる。そして、検出器に到達する時間を測定することによって質量を測定する。装置の構造として簡単で飛行距離を長くすることによって精度も容易に向上させることができる。そのため、質量が大きな分子に有効であり、高分子も測定することができる。Figure 6に飛行時間型質量分析装置の写真を示す。


Figure 6. 飛行時間型質量分析装置 Time Of Flight Mass (TOF-MS) Spectrometer.


時間分解分光測定法

   巨大なYAGレーザー発信器です。分光光度計と組み合わせて使用します。Figure 7にYAGレーザー発信装置の写真を示す。


Figure 7. Laser flash photolysis (LFP) instrument.


単結晶X線構造解析

   単結晶X線構造解析によって、有機分子の構造を決定することができる。単結晶にX線を照射すると電子と相互作用する反射する。結晶格子のような繰り返し構造をもっていれば、反射光に回折現象が現れる。その画像を解析すると電子密度の分布を調べることができる。電子密度の高いところに原子核の中心があると考えて、有機分子の構造を決定する。そのため、有機分子は一般に電子密度が小さいため、回折の強度は小さい。Figure 8に単結晶X線構造解析装置の写真を示す。


Figure 8. Imaging Plate Single Crystal X-ray Diffractometer.


融点測定

   融点および沸点は、物質の構造を決定するうえで最も簡単な同定法である。純粋な物質は、固有の融点および沸点をもっている。そのため、純粋な物質の融点や沸点と比較することによって構造を決定することができる。
   実験では、まず、キャピラリーチューブを作製して2-3 mmの試料を導入する。そして、そのチューブを融点測定器中で加熱する。加熱はゆっくりと行わなければならない。もしも温度上昇が速ければ温度計の温度とヒーティングブロックの温度に差がでるため、測定された融点が不正確になる。そのため、融点の20 oCよりも下の温度まで10 oC/minであげ、融点付近では1-2 oC/minで上昇させるとよい。
   実験ノートの融点測定の結果は溶け始めと終わり、および温度上昇速度を記録し、実験レポートで報告する。さらに、文献の値と比較することによって、目的物質であるか同定し、純度について議論する。Figure 9に融点測定装置の写真を示す。

   例 mp 51.0-52.0 oC ( 1 oC/min)


Figure 9. Melting point apparatus.


理論計算 (Theoretical Calculations)

   理論計算は、その計算法に応じて大きく分けて経験的、半経験的、非経験的の3つに分けられる。それぞれ計算精度と時間や費用に特徴があるが、概ね経験的、半経験的、非経験的計算法の順に計算精度と費用が増してゆく。そのため、有機化合物を計算する場合には、両者の間で妥協したレベルで計算することになる。計算機のスピードと値段は、かの有名なムーアの法則 (Moore's Law)である「半導体の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」に従ってきている。そのため、実験化学者が取り扱っている分子は、非経験的レベルで計算することができるようになった。
   現在、よく使われている計算法は、DFT (Density Function Theory)法と呼ばれ、密度汎関数理論に基づいている。しかしながら、多電子系ではシュレーディンガー方程式の厳密解を得ることはできないため、近似解しか得られない。そのため、計算結果の解釈には注意を払わなければならない。
   Hückelは、英語でハックルと発音するので混乱しないように。Figure 10に理論計算装置の写真を示す。


Figure 10. Computers.


操作型プローブ顕微鏡 (Scanning Probe Microscope)

   Figure 11に操作型プローブ顕微鏡の写真を示す。


Figure 11. SPM (Scanning Probe Microscope).


高真空蒸着装置(High-Vacuum Deposition System)

   金を真空中で加熱して、マイカ基盤に蒸着させ、Au(111)面に方位のそろった薄膜を製作します。硫黄原子が含まれる有機分子は、金表面に吸着する性質を持ちます。そのため、この基盤は、有機単分子界面の研究に使われます。Figure 12に高真空蒸着装置の写真を示す。


Figure 12. 高真空蒸着装置 (High-Vacuum Deposition System).